ベス・チャトー・ガーデン③

 本日もベス・チャトー・ガーデンの続きです。

 ご自宅の裏側のスペースには多肉植物や背丈の低い草花の植えられている花壇がいくつもありました。ガイドブックの裏面に印刷されているガーデン・マップを見ると、その場所には【scree】という文字が書かれていました。screeというのは「がれ場」という意味のようです。広辞苑で「がれ」という言葉を引いてみると、「谷川ぞいの路、あるいは山崩れで崖になった、石塊のがらがらした急斜面」とあります。おそらくそういう環境に適した植物を植えている場所、という意味なのでしょうね。ガイドブックのthe scree bedというページを読んでみると、アルプスという言葉が出てきます。高山植物などを植えているスペースのようです。

 ロックガーデンのようには作らず、いくつかに区分けして、写真のように植えられています。この円形のパターンはガーデンのほかのコーナーでも取り入れられており、360度どの位置から見ても美しく見えるような工夫がされています。

 ベス・チャトーさんはお若い頃はフラワーアレンジメントを各地で教える活動もされていたとのことですし、日本のいけばなの本を大事にされているそうで、庭造りにもいけばなの天地人の形を取り入れているとテレビで話しているのを見ました。天地人を heaven, earth & man shapeと呼び、ガーデニングのゴールデンルールだと話していました。ひとつひとつのサークルに天地人の目線は取り入れられています。

 写真のサークルの中央にあるJudas Treeという木は、45年前に植えたものだそうです。今は花が咲いていませんが、ガイドブックの中では濃い桃色の花を咲かせた写真が載っていました。和名はセイヨウハナズオウというそうです。

 前の回にも少し書きましたが、ベスさんのご主人のアンドリューさんは、生涯を通じて植物の生育地域や環境についての研究をなさった方で、実際の庭仕事はいっさいしなかったようですが、ベスさんの作る庭にはアンドリューさんの研究の成果が反映されています。

 スイスのアルプスへの調査旅行の話などもテレビで紹介されていましたが、いわば、アンドリューさんの研究の成果を、ベスさんが形に仕上げていったという感じなのではないでしょうか。植物はそれが育ったのと同じ環境で育てられるべき、というのがベスさんの庭造りの基本です。

 アンドリューさんはベスさんよりもひとまわり以上年の上の方でした。このスクリーガーデンは自宅の寝室から一番よく見える位置にあり、アンドリューさんはこの庭を見ながら1999年に90歳で人生の幕を閉じたとのことです。

 ひとつのことを毎日コツコツとやり続けることは、大変なことだとかよく飽きることがないねなどと言われたりもするものですが、案外やっている本人にとっては大変でも飽きたりもしないことで、それは毎日同じに見えても同じではなく、新しい発見の連続であることでしょう。

 庭を公開しているところでは花の盛りの夏だけというところも多くありますが、このベス・チャトー・ガーデンやコッツォルズのキフツゲートコートなどのように、シーズンチケットを用意しているところもあります。植物は一年中同じ顔をしてはいません。花の咲く時期もあれば葉だけになる時もあり、また地上部は枯れ果てる時期もあります。

 葉の色も一年中同じでないのは日本人こそ一番よく知っていることでしょう。そしてその色は、どこにあっても同じ変化をするものもあれば、その場所によって色合いや美しさの異なるものもあります。

 また、植物は一年前と今年とではその姿も変わります。1年や2年では変化のないように見えるものも、時が10年20年、そしてこのベス・チャトー・ガーデンのように50年も経つと、若い苗だった小さな木も、他の植物を見下ろし、風雨や強すぎる日差しを遮る大きな傘となります。

 同じ名前で呼ばれているものが、こことあそことではまったく違うもののように見えるというのは、よくあることです。この花はカモミールと同じAnthemisという名前がついていますが、大きさも違えば色も違います。でも、なんとなくカモミールの仲間なのかな?ということは、その姿形から想像できますよね。

 ガーデン巡りが面白いのは、小さな庭であれば、人間の自由な発想や工夫を見ることができることと、大きな庭であれば、植物そのものの自由で伸びやかな姿を見ることができることだと思います。

 適した環境で育てることは成功への大きなポイントではありますが、型にはめずに試してみることもまた、大切なポイントの一つなのだと、ここへ来ると知ることが出来ます。クレマチスは壁や支柱に這わせるだけではないのですね。グラベルガーデンでは、こんな風に地を這うクレマチスがのびのびと綺麗に花を咲かせていました。

 後でベスさんの著書を確認すると、このグラベルガーデンのクレマチスについては、「クレマチス・・・意外なことに」というタイトルで述べられていました。やはり最初はクレマチスは支柱の必要なものと思われていたようで、これはベスさんにとっても他の方からのアイデアで試してみたことのようです。

 ちなみにこのグラベルガーデンは、雨以外の水分を人工的にはいっさい与えないで育てるという、いわば実験的な庭のコーナーです。雨の降らない日の続く時には、ガーデナーも植物もじっと我慢しなければなりません。刈り込みや剪定を強めにして、植物の体力の消耗を防ぎ、植物の必要な水分を少なくする工夫をするとテレビでは紹介されていました。

 また、このようにグランドカバー系の植物がよく育てば、それ自体が地表を覆い乾燥しすぎを防いでくれるようになるそうです。やはりそれにはタイムの仲間がいろいろと利用されてるようで、プランツリストにも17種類ものタイムが掲載されていました。この赤シソに似た葉色のものもタイムの仲間でしょうか???

 私たちの訪ねた日はちょうど雨降りの日。自然からの水遣りの日に出かけたというわけですね。全ての植物がとても生き生きとしていたのは、そんな雨降りの日だったからかもしれません。

 写真右の黄色い花のついた植物は乾燥にとてもつよいユーフォルビアのひとつだそうです。ユーフォルビアはベス・チャトー・ガーデンの環境にとてもよく合う植物だそうで、プランツリストにも21種類も掲載されていました。著書にもこの植物についてたくさんの記述が見られます。

 そしてまた驚くのは、このグラベルガーデンがもともと肥沃な土壌を持った場所だったのではないという事実です。ここは石と砂利だらけの植物など育つはずもないと思われた不毛の土地だった場所なのだそうです。実際長年の間にはずっと駐車場として使われてきました。

 Gravelというのは砂利という意味の言葉で、最初この土地を掘り返したときには、本当にごろごろとした石や砂利ばかりが出てきたようです。それらの石や砂利は、その後も他の部分の水はけの改良などに利用されているようです。

 池のあるウォーターガーデンにしてもそう。最初はドロドロにぬかるんだ沼地だったところを、このような美しい様子に少しずつ変えていったのだそうです。

 もともとあった森のようみ見えるところも、いくつかの古い自生の木をのぞけば、そのほとんどが1本1本、日陰の好きな植物を植えて育てた結果できあがったもの。このあたりは早春に訪れると、クリスマスローズや球根の花などが見られるのだそうです。ヒューケラもたくさん植えられていました。

 グラベルガーデンでは今でも新しい試みが続けられています。古い土を取り除き、新しい土とコンポストを入れ、新しい植物が植えられます。根付くまでは水遣りをして、様子を見ているようですね。

 ベスさんの本を読むと、この下は深さ6メートルに達するほど、砂と石、砂利の土壌が続いていたのだそうで、今もそれを全て入れ替えたわけではもちろんなく、保水に関する工夫は小さな砂利で上から覆うことなどさまざまに工夫されているようです。

 その横のスペースにはこんな植物達が植えられていましたよ。ここでうまく育つことが出来るでしょうか?楽しみですね!

 最初は多少見栄えがしなくても、保水と多少の養分のために藁で上から土を覆っておく工夫もしているのだそうです。藁は植物が育つ頃にはすっかり見えなくなりますし、藁自体が次第に分解されて目立たなくなってくるのだと著書に書かれていました。

 こちらはサンジャクバーベナというバーベナのようです。三尺というくらい長さのあるもの、というわけですね!南米原産だそうで、調べてみると日本でも道路わきやコンクリートの隙間から生えていることもあるとのことですので、とても強い植物のようです。

 ベス・チャトー・ガーデンに来ることが出来て幸せです。また何度でも来たくなるほど素敵なところでした。春、夏、秋、冬と、異なる庭の姿を見てみたいです。

 いろいろな方の庭を見て思うことは、与えられた、手に入れた場所がそのまま、今私たちが見ているような美しさを最初から提供してくれていたわけではないということです。素晴らしい場所、素晴らしい景色、素晴らしい人生の後ろには、必ず様々な試行錯誤があり、人々はみな、その試行錯誤を嘆くことなく楽しんできたのだということを知りました。日々の小さな積み重ねが、必ずや人々を想像も出来なかったくらい遠くへと、運んできてくれるのです。初めと終わりをひとっ飛びにすることは出来ませんが、それは必ずや一本の線でつながっています。こことあそことは、ひと続きのものなのです。どんなに別世界に見えたとしても。

 ベス・チャトーさんの著書はたくさん出ていますが、昨年「奇跡の庭」というものが清流出版より翻訳されました。日本語訳の「奇跡の庭」はベス・チャトー・ガーデンのショップにも置いてあり、£20でしたので、レート次第では、日本で買うよりもかなりお安く求めることが出来ます。




 

コメント

lce2 さんの投稿…
物凄く長いスパンでスローに暮らしている方が居るんですねぇ。コツコツとした取り組みが写真から溢れ出ている気がします。この庭、好きです。

思い付きで朝顔を支柱無しで育てた事があります。平面状に拡がるという私の目論見をよそにジャングルのようにコンモリとなってしまい、大量の種を撒き散らしました。ちなみにLAでは一年中朝顔が発芽し、真冬を除いて花を咲かせます。後日、「朝顔を地植えしてはいけない。」と、ご近所さんから聞いたのでした・・・。
Sana さんの投稿…
★lce2さん、おはようございます。
「奇跡の庭」を読むと、ベスさんやガーデンのスタッフの方の様子が生き生きと分かります。(現在は50人もの人々がベス・チャトー・ガーデンで働いているそうです。)イギリスではガーデナーは本当にひとつの確立された職業なのだなぁと思いました。

朝顔、LAでは育ちすぎちゃうんですね(笑)。こちらでも花は小さいのですが、時々道路わきの芝の中に朝顔のようなものをたくさん見かけます。同じ花でも環境によっていろいろで面白いですね!

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