今週のなっちゃん(66)ニャロメを待ちながら


ある晩のこと。夕飯も終わり、私は2階のパソコン部屋、もーりーさんは1階のリビングのソファーとそれぞれ思い思いの場所で寛いでいたおり、突然

ふんぎゃあ~~~~~!

と、家中に響き渡る声が聞こえました。次の瞬間、もーりーさんの

なつこぉ~ッ!大丈夫か~!

と叫ぶ声が後を追います。

なつこは私と一緒に2階にいて寝ていましたが、ふいに上体を起こし、もうとっくに雨戸とカーテンの閉められた窓の方へと顔を向けています。「なっちゃんはここにいるから大丈夫だよ~」そう言いながら私は階段を降りました。

「なんだ、なつこじゃなかったんだ。じゃぁ外かな?今のって、猫の叫び声だったよね?」  
「うん。昔はああいうの、盛りの時期にはしょっちゅう聞いたけど、最近では珍しいよね。野良猫なんてこの辺でほとんど見ないのにね。」

「ちょっと見てくる。」そう言うともーりーさんは玄関を開け、もうほとんど車も通らない時間帯の、真っ暗な夜の中へと出て行きました。

「う~ん?どこにも猫の姿は見えないな~。もうどっか行っちゃったのかな。」


翌朝、庭に面した部屋の雨戸を開けると、そこには昨夜の猫の残していったらしい”証拠”が散乱していました。
「もりちゃん、おはよう。昨日ここで何があったか分かったよ。ほら、これ見てよ。まったくドジな猫だねぇ。 
隣の高い塀からうちの室外機の上に飛び降りようとして、こりゃきっと失敗したんだな。上に乗せておいたハンギングは落ちてるし、ワイン箱の位置もずれちゃってるよ。派手に落ちたもんだねぇ。おまけにあっちも見てごらん。刈り取っておいたバラの枝があんなところまで散乱しちゃって。たぶん、この刈り取った枝を積み上げておいた山の上に落ちて、バラの棘でも刺さったんじゃない? で、あんな声をあげた・・・と。
かわいそうなことしちゃったなぁ。まさか猫が落ちてくるとは思わないから、棘を取らずに置いちゃった。枝ごと体にくっついてきてビックリして、振り落としながら逃げたんだね。」

姿を見ていないのに、私達はちょっと太った大きな雄猫を連想し、そいつに勝手に名前をつけました。ニャロメ。その晩からなつこは彼を待つようになりました。ニャロメのイントネーションは、この場合ロミオと同じ。
おぉ、ニャロメ!どうしてあなたはニャロメなの?

一度バラの棘の上に落ちたくらいでニャロメは散歩を止めませんでした。その後もたびたび、わが家の室外機の上に置いてある空のハンギングバスケットを蹴落として行きます。晴れの日も雨の日も・・・。「ガサツな男だな、まったく・・・」そう言いつつも私は、庭に出て奴の落としたハンギングを拾います。もう少し着地しやすいようにと、置き場所までちょっと変えてやったりしながら。

毎晩なつこは窓の外をうかがっています。けれども猫の眼を持たぬ私達には、なつこの見つめる真っ暗な夜の庭を見ることは出来ません。そんななつこを見てもーりーさんは、「あいつは男に夢中だな」なんて言って、猫を相手にいっぱしの父親気取りです。

わが家の猫娘はお年頃。今宵もニャロメを待っています。


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