草光俊雄先生のトークショー@本屋B&B(下北沢)②


2月11日(土)にお邪魔した、草光敏雄先生の『歴史の工房』(みすず書房)出版記念トークショーの話題の続きです。場所は下北沢の本屋B&Bでした。

会場には4人掛けくらいの大きさのダイニングテーブルのようなものが据えられ、その向こう側に草光先生と松家さんがおかけになり、テーブルの上にはマイクが設置されていました。先生はビールをお飲みになっていました。ワンドリンク付きのイベントでしたので、客席もみな思い思いのものを飲んでいました。ダイニングテーブルを挟んで向かい合うように客席が設けられ、どのくらいの人が来ていたのでしょうか?50人くらいはいたのかもしれません。大盛況でした。本屋さんですから、イベント会場のまわりにはぐるりと書棚があるといった具合です。

最初はノートも広げず傾聴するのみ…と思っていたのですが、松家さんの第一声が『歴史の工房』からの引用朗読「失われ追悼されていく者に対する…」と始まったので、客席からは本を開く気配がちらほら。私もバッグから持参した本を取り出して、該当ページを確認しました。ついでにノートも取り出して…と。こうなると、習性としてメモをしながら聞かないわけにはまいりません。結果、メモはたった2時間(トークイベントとしてはかなり長いけど)でも厖大な量になりまして、帰宅後に項目をざっと数えてみますと、話題は最後の質疑応答も含め17項目にも及び、非常にディープな2時間だったな~と改めてびっくりしました。

それで、あまりにもイベントレポートとしては情報量が多く、また要約しちゃうと面白くなくなってしまうかな?とも思いますので、ほとんどRawデータ的になってしまいますが、メモしてきたものをそのまま再現したいと思います。

なお以下の書式は、見出しとして松家さんからの問いかけを太字で書き、その後に草光先生のお話を標準フォントで続けるというスタイルにしました。台詞はお二人の話し言葉のままではありませんことをご承知おきください。よって、お人柄の雰囲気が変わってしまうかもしれませんが、そのあたりもどうぞご容赦を。

また、一つ一つの話題の前振りとして松家さんの体験談やお考え(英米比較、インターネット時代考、海外版権についてのお仕事 etc, )のお話もあり、それもとても面白かったのですが、ここでは草光先生への問いかけのみを抜き出しておりますことをご了承ください。

各項目ごとに、*印で注も付けました。それには主に『歴史の工房』の関連ページを書いておきます。また、注の後ろにや文中に〔 〕であるものは私の書いた補足や感想です。(笑)マークは、笑い声が出ていたな~という部分に少しだけ付けました。硬い話題の時でも和やかで、笑い声の多い素敵なトークショーでした。人物名にリンクがはってあるものは、英文のWikipediaにとびます。

それでは、長くなりますので「続きを読む」でたたんでおきます。ご興味ある方はどうぞ。(写真はありません。)


1. トークショー前に2週間ばかり欧州に行っておられたとのことですが、どんなご旅行でしたか?


ニーダム(*1)の時に出会い、東大時代にケンブリッジのフェローに招いてくれた友人が早期退職をすることになり、そのディナーとシンポジウムに出席するための渡欧です。ディナーとシンポジウムの招待状はガードン(*2)のミストレス〔学寮長?〕からいただきました。ガートンは、昔は女子コレッジだったんです。戦後に共学になりましたが、今でもミストレスを使っているんですよ。まぁ、〔学寮長は〕女性の方ですが。

ケンブリッジ、オックスフォード、ロンドン、イタリアに行きました。ケンブリッジ以外はついでです。ピーター・バーク(*3)にも会いました。

*1: 『歴史の工房』105-115ページ、「ジョセフ・ニーダムとの出会い」
*2: 『同』208ページ、「イングランドの山歩き」
*3: 『同』38-67ページ、「人文主義者ピーター・バーク」


2. 滞在中、イギリスのEU脱退について話題に上っていましたか? 


どの人とも会う度にその話題になりました。ちょうどEU脱退についての最高裁の決定が「議会の承認なくしてやってはダメ」と出たので、みんな安心し、喜んでいました。私の友人達は大学教員が多いので(今日も宮下先生が来てくださっています(*4))、彼らはEU脱退に反対していました。スコットランドの人などは、EUを脱退するなら独立だ!と(笑)。

学問の好奇心は一国でとどまるものではなく、昔から手紙や旅行などで行き来しており、EUは豊かな方向でそれを保障するものです。学生にとっても学問共同体として豊かなものになってきていました。この先、こうした交流が失われるのではないかと心配されています。

*4: 文学者の宮下志朗先生のこと

3. イギリスはほかの大陸側の国々とのつきあいにくたびれてしまったのでしょうか?(EU脱退の話題をうけて)


そうは思いません。イギリスには二面性があります。ひとつは、英仏海峡を挟んで、自分たちは大陸とは違うんだという意識です。これはインテリの中にもあります。もう一方は、18、19世紀の大航海時代、大英帝国時代の、世界地図を誇らしげにピンクに塗りつぶす…といった意識です。これらが複雑に絡み合っているのがイギリスという国です。

また、イギリスは亡命者などに非常に寛容だという面もありました。どこの国でも受け入れてもらえないという人をイギリスは受け入れてきたんです。マルクスなどがそうですね。しかし、今それが変化してきているのではないか?ということは言われています。寛容だったイギリスが不寛容になってきているのではないか?と。

4. インターネット時代になり、通時論(過去→未来という歴史を学ぶ姿勢)が弱まり、共時論ばかりが強まっているように感じられますが、どう思われますか?


それは面白い指摘だと思います。しかし、共時論は必ずしも現代的でもないと思います。人文主義が出てきた時代からではないでしょうか?大航海時代にアジアなどの自分たちとは違う世界を「発見」(と言うと怒られちゃうけど)した時、横軸(共時論的)に見ると自分たちの過去を見ているような気になりびっくりして、今度はそれをひっくり返して縦軸(通時論的)に見ると、遅れているところと進んでいるところというのが出てきました。

過去との対話や、異文化を自分たちの価値観でどうやって受け止めるかの中から、18世紀に文化人類学や比較史などが出てきました。基本は通時論が主流だろうと思いますが、絶えず共時論的な見方も補完として重要だと思います。グローバルヒストリーなどは「他の地域を見てヨーロッパ主義を反省する」というものですし、歴史にとっても、両方とも大切だと思います。

そうは言っても、今のインターネット時代は、両国の関係をどうやって築くのかという視点が欠落しているし、やや経済主義的すぎるようには思います。(*5)

*5: 松家さんの前振りで、共時論ということを踏まえて、毎回のニュース番組の最後に、どの番組でも必ず為替と株の値動きが報じられることに対する疑問が投げかけられた。

5. 4.の視点から歴史学に不安はありますか?


歴史修正主義というものがあります。「歴史学というのは全部テキストであり、書いた人の思惑があり唯一正しいというものはない、歴史家の意見を述べたに過ぎない」という考えで、社会学をやっている人に多かったのですが、それはどうしたものかなと思っていました。

友人の歴史学者は、「そんなことを言ったら何もできなくなってしまう。流行りの理論に動じず、自分のやってきたことをやるだけだ」と言っています。私も歴史学の将来は心配していません。資料を真摯な気持ちで読み、それを自分なりに読み解き、論文でまとめる。ここは変わりません。

6. 『歴史の工房』で、草光先生は歴史は文学であると主張されている(*6)と受け取りましたが、そう主張するのはなぜですか?(*7)


(自分が)今まで読んできた歴史書は、科学ではなくて文学なんです。アートかサイエンスかということですが、この場合アートを芸術としてしまうとおかしいので文学としているわけですが。今読んでいるスティーヴン・ランシマンの本にも「ヒストリーはサイエンスではなくアート」と書かれています。

〔ここで松家さんがすかさず、「その本は翻訳されていますか?」「いや、まだ」というやりとりが。この「翻訳書は出てますか?」という質問は対談中に何度か出てました・笑〕

スティーヴン・ランシマンは十字軍やビザンツで著名な歴史家で、去年伝記が出ました。今はもう彼の研究は時代遅れですが、読んでいて面白いです。

また、尊敬するキース・トマスも、歴史を書くということは過去から現在においてその間を、自分の想像力を使って人々に伝えること、人間を描くことだと言っています。キース・トマスは昨年日本に来ています。『宗教と衰退』〔Religion and the Decline of Magic〕や『人間と自然界』などを出しています。

最近は歴史にも統計学を使ったりしていて、それはそれで面白いけれども、人口の長い歴史の中での変動を使った歴史では、『われら失いし世界』のピーター・ラスレットがパリッシュ・レジスターを用いています。教区簿ですね。これにはどんなに無名な人でも、英国教会の信者なら3回は名前が出てきます。生まれた時、結婚した時、そしてベイリアル、埋葬記録ですね。ここから誰それの娘はどんな人か、当時の婚礼はどんなものだったかが見えてきます。自分への教訓としても、「書かれた歴史は文学である」と思います。

*6: 『歴史の工房』17-37ページ、「歴史は文学か科学か」
*7: この話題の前振りとして、松家さんは丸谷才一さんの『文学レッスン』(新潮文庫)のお話をされた。また、この話題の最後には、パリッシュレジスターの話を受けて、活版印刷のグーテンベルグの裁判記録についての話をされた。


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本日はここまで。続きは明日③としてアップできるようにします。



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