ジョアオ・マゲイジョ『光速より速い光 アインシュタインに挑む若き科学者の物語』(NHK出版,2003年)


ジョアオ・マゲイジョはイギリスに住むポルトガル人で、現役の理論物理学者です。宇宙論というのが彼の専門だそうで、この本はタイトル通り、若き科学者がアインシュタインに挑んだ物語の記録です。

光速不変が大前提で成り立っている物理法則の多い中で、光速は不変じゃないとする説を発表することが何を意味するかは、素人にも想像することができます。つまりこれは、すぐさまトンデモと思われかねない、タブー中のタブーだったというわけです。(実際、訳者の青木薫さんもこの本の翻訳依頼が来たときに、著者の経歴を知る前はトンデモ話がきたと思って無言になってしまったと「訳者あとがき」に書いていました・笑)

その、自殺行為とも受け取れる大胆な説を自分のメインの研究にすえ、どのように論文を発表し、本を書くまでに至ったか?を綴ったのが本書です。

VSL(Varying Speed of Light)と名づけられた光速変動説がどのような理論なのか?それをなぜ思いついたのか?どうやって他の人々に伝えたのか?そして、どんな対応や反応をされたのか?共同研究者をどうやってみつけ、論文はどのように書かれたのか?発表されるまでどんな困難があり、またかつて同じアイデアを持っていた人はいなかったのか?

and so on ...

つまりこの本は、光速変動説というスキャンダラスとも受け取れる理論の概説であると同時に、日々、科学者たちがどのような研究生活の送り、自説をどのように論文として発表するのかが書かれたドキュメンタリーとして読むことができます。また、書かれている事柄には必ずしも上品とは言えない表現も含まれて、かなりプライベートな話題もあるので、著者の自伝的側面もあるかと思います。

その辺りは好みの分かれるところではありますが、反面そのおかげで、素人には分かりようもない難題を扱っているにも関わらず、エンターテイメントとしての読書を楽しむことができる本にも仕上がっています。テンポが良いので、あっという間に読み終えてしまいました。

最後に少し長くなりますが、第一章から本書についての著者自身の説明を引用します。


たとえ僕のアイディアが正しくないことが判明したとしても ー それは知識を大きく前進させるようなアイディアには必ずついてまわる一つの可能性だ(いつもそうだとは言わないまでも)ー 以下に述べる理由から、この物語を語ることにはなお価値がある。第一に、読者のみなさんに科学研究のあり方を知ってもらいたいからである。(中略)

しかし、それよりいっそう重要なのは、VSLの話をするからには、この理論が否定する、ないし使わずにすまそうとしている当の理論である相対性理論とインフレーション理論を詳しく説明せざるをえないことだ。そのため、いささか逆接的ではあるが、本書にはこの二つの理論がもっとも良い形で説明されている。僕はかねてから、教科書に載っているようなアイディアを説明するためには、それを否定してみるのが一番だと考えていた。あえて意地悪な問をつきつけてみること、ちょうど法廷における反対尋問のようなことをしてみることで、そのアイディアが生き生きと立ち表れてくるのである。

以上のような理由から、たとえVSLが最終的に使い物にならなかったとしても、この本はぜひ読んでもらいたい。もちろん、使い物になったほうが話はずっとおもしろくなるだろう。きっとそうなると請け合うことはできないけれど、そうなる見込みはあると自分では思っている。

(第一章 とても馬鹿げた理論 P19-20)


なお、本書を読む前に、この本の出版の数年後に同じ著者が書いた『マヨラナ』を読みました。こちらは失踪したイタリアの物理学者の足跡をたどった作品です。

★『マヨラナ』のことを書いたエントリーはこちら→https://dolcevita-sana.blogspot.jp/2017/07/nhk-2013.html

コメント

人気の投稿